直角三角形でsin・cos・tanを学ぶときには、いつもひとつの前提があります。角θは0°から90°のあいだでなければならない、ということです。三角形の中の角なので当たり前の制約に思えますが、困るのは、回転するものや周期的にくり返す現象(観覧車、振り子、交流電流)を扱うには、120°や200°、さらには720°といった角のsinやcosが必要になることです。三角形にはそんな角は入りきらないので、三角形だけに頼っていては根本的に行き詰まってしまいます。
この問題を解決するアイデアが単位円です。座標平面の原点を中心に半径がちょうど1の円をかき、x軸の正の向きから角θだけ回転した位置に、円周上の点Pをとります。ここで定義をがらりと変えて、sinとcosを「直角三角形の辺の比」ではなく「点Pの座標そのもの」として定義し直します。つまり、Pのx座標がcos θ、y座標がsin θです。
この定義が自然なものである理由は、θが0°から90°のときを見ると確かめられます。原点O、点P、Pからx軸に下ろした垂線の足の3点を頂点とする直角三角形を考えると、斜辺の長さはいつも1(半径)なので、「高さ÷斜辺」と「底辺÷斜辺」はそのままy座標とx座標になります。つまり単位円による定義は、すでに知っている三角比の定義を含んだうえで広げたものです。前に習ったことを捨てるのではなく、使える範囲を360°全体へ、さらには負の角や720°のような値にまで広げているのです。
角が90°をこえると座標の符号が変わり、おもしろい規則が見えてきます。円を4つの部分(象限)に分けると、第1象限(0°〜90°)ではxもyも正なので、sin・cos・tanはすべて+です。第2象限(90°〜180°)ではxが負になるので、cosだけが−になり、sinは+のままです。このように象限ごとにどの値が+でどの値が−かには決まったパターンがあるので、「いくつか」がわからなくても、どの象限にあるかを見るだけで「符号」はわかります。
単位円の本当の力はこれだけではありません。点Pが一定の速さで円の上を回り続けるところを想像してください。その点のy座標(sin θ)を、時間の経過に合わせて横に引き伸ばしてグラフにすると、なめらかに上下する波(正弦曲線)があらわれます。この曲線は、スピーカーから出る音の波、交流電流の電圧、くり返す季節の変化など、「一定の間隔で同じようにくり返す」あらゆる現象を表すための基本的な道具です。
体験ページでは、スライダーで角θを0°から360°まで自分で回しながら、点Pの座標、sin・cos・tanの値、いまどの象限にいるかをリアルタイムで確かめられます。「自動回転」ボタンを押すと、点が回り続けながら右側にサイン波とコサイン波がかかれていく様子も見られます。