中学数学でいちばん有名な公式をひとつ選ぶなら、きっとa²+b²=c²でしょう。この公式を初めて習ったとき、私はテストに出るからとただ丸暗記していました。本当に理解できたのは、あとになってこの式が何を表しているのかを図で見たときです。
考え方の中心はこうです。直角三角形で、直角をはさむ2辺をa、b、いちばん長い辺(斜辺)をcとします。3つの辺それぞれに正方形をかくと、小さい2つの正方形の面積を足したものが、大きい正方形の面積とぴったり等しくなります。3・4・5の三角形で確かめると、3×3=9、4×4=16で、足すと25。5×5=25とぴったり一致します。
この定理のおもしろいところは、証明のしかたが何十通りもあることです。図を切り分けて並べかえ、面積が等しいことを示す方法もあれば、正方形の中に4つの三角形を並べて同じことを示す方法もあります。このサイトでは、同じ4つの三角形を動かすだけで、c²に見えていた面積がa²とb²に分かれていく様子をアニメーションで見られます。自分の目で見ると、「本当に同じ面積なんだ」という納得が、どんな説明よりもずっと早く得られます。
三平方の定理は教室の外でも役に立ちます。大工さんがメジャーで3・4・5の比を測って壁がきちんと直角に立っているかを確かめられるのもこの定理のおかげですし、地図上の2点間の直線距離を求めるときや、テレビやモニターの画面サイズの測り方の裏にも、同じ公式が隠れています。
興味深いことに、この定理は「逆」も成り立ちます。つまり、三角形の3辺の長さがa²+b²=c²を満たしていれば、分度器を使わなくてもその三角形は必ず直角三角形です。この原理は実際に古代から使われてきました。古代エジプトでは、ロープに等間隔で結び目をつけて3:4:5の三角形をつくり、ピラミッドや畑の直角の角を正確に測ったといわれています。測量技術がいまほど進んでいなかった時代に、ただのロープ1本で正確な直角をつくり出したのは、実にうまい工夫でした。いまでも大工さんや庭師さんが似た原理で壁や柵の角度を確かめていると知ると、何千年も前の数学がいまも生きて使われていることが、なんだか不思議に感じられます。
役に立つコツをひとつ。3・4・5、5・12・13、8・15・17のように3辺がすべて整数になる組み合わせは「ピタゴラス数」と呼ばれ、いくつか覚えておくと問題を解くときの計算がぐっと速くなります。ピタゴラス数探しをクイズにすると、子どもたちは意外と楽しんでくれます。まずは2辺を示して残りの1辺を求める問題から始め、慣れてきたら逆に3辺の長さを示して「これは直角三角形?」と聞いてみると、考えがもう一段深まります。両方向を行き来しながら練習すると、同じ公式が「足りない辺を求める道具」にも「三角形の性質を確かめる道具」にもなることが自然と身につきます。